最低賃金の引き上げ、10月までにやる時給・月給のチェック手順
最低賃金の改定額を見て賃金台帳を開くと、時給のパートだけ直せば足りるのか、月給の社員も見るのかは、判断に迷いやすいところです。 最低賃金の対応は、この入口でつまずきます。時給の人は単価をそのまま比べれば済むのに対し、月給の人は所定労働時間で割って時間あたりに直さないと比べられません。同じ賃金台帳の上に、比べ方の違う二種類が並んでいるからです。
さらに、改定額が効き始める発効日は都道府県ごとに決まるため、気づかないうちに過ぎてしまうことがあります。2026年度の発効予定日は、地域によって10月1日から12月2日までの幅があります。この記事では、発効日が10月1日の地域は9月中に、それより後の地域も10月までに着手し、自社の発効日までに終える確認をまとめました。並べ方は、発効日の確認から通知と記録までの順です。時給と月給で変わるのは比べ方だけ、という整理から入ります。
最低賃金は時間あたりの金額で決まるため、月給の人も時間額に直したうえで、勤務地のある都道府県の地域別最低賃金と比べます。
- 最低賃金は時間あたりの金額で決まります。月給の人も時間額に直して比べてください。
- 支給額のうち、通勤手当や時間外の割増など、最低賃金の計算に入れない部分があります。
- 手順は、発効日と地域の確認、対象者の洗い出し、算入する賃金の仕分け、時間額への換算、改定と通知・記録の順です。
- 改定額と発効日は年ごとに変わるため、厚生労働省と都道府県労働局のページを開き、自社の県の金額と日付を控えます。
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最低賃金の引き上げ対応で先に押さえる前提
最低賃金は時間あたりの金額で決まります。雇っている人の賃金を時間額に直し、地域別最低賃金と比べます。対応の中身は、ほとんどがこの作業です。比べる前に、対象者、時給と月給の比べ方、発効日の三つをそろえておくと迷いにくくなります。次の章では、発効日と地域の確認、対象者の洗い出しから進め、そのうえで算入する賃金を仕分けます。
対象になるのは雇っている人全員
パート、アルバイト、契約社員、正社員といった呼び方では分かれません。雇っている人はすべて地域別最低賃金の対象です。見るのは働く場所で、勤務地がどの都道府県にあるかで金額が決まります。
本社が東京で勤務地が埼玉の店舗なら、比べる相手は埼玉の金額です。派遣で受け入れている人は、派遣先の事業所がある地域の金額と比べます。業種によっては地域別より高い特定最低賃金が定められている場合もあるため、自社の業種もあわせて見ておくと安心です。
時給と月給で変わるのは比べ方だけ
月給制だから対象外、という整理にはなりません。月給の人も、1か月あたりの所定労働時間で割って時間額を出し、同じ土俵で比べます。判断軸は、金額そのものより1時間あたりに直した後の数字です。
月給25万円と聞くと足りている気がしますが、所定労働時間が長ければ時間額は下がります。逆に、週3日の短時間パートでも、時間額が足りていれば問題は起きません。賃金台帳を開いたら、賃金額の列と所定労働時間の列をセットで見る癖をつけると読み違えが減ります。
発効日は地域ごとに違う
改定された金額は、公示された発効日から効き始めます。例年は10月前後に集中しますが、日付は都道府県ごとに決まります。2026年度は、地域によって10月1日から12月2日まで分かれる予定です。隣の県と1か月以上ずれる場合もあるため、自社の県の日付を必ず確認してください。
9月のうちに自社の都道府県の発効日を調べ、給与計算の締め日と並べてカレンダーへ入れておくと動きやすくなります。複数県に事業所があるなら、県ごとに日付を書き分けておきましょう。発効日が11月や12月の地域でも、10月までに確認を始めておけば直前で慌てずに済みます。
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10月までに進めるチェック手順
進める順番は、発効日と地域の確認、対象者の洗い出し、算入する賃金の仕分け、時間額への換算、改定と通知・記録です。最初の二つは、次の「準備するものをそろえる」でまとめて扱います。順番を入れ替えると、対象者の抜けや二度手間が起きやすくなります。
準備するものをそろえる
手元に置くのは、賃金台帳、雇用契約書または労働条件通知書、賃金規程、年間の所定労働時間が分かる年間カレンダーです。あわせて、自社の都道府県の改定額と発効日を控えておきましょう。
対象者は事業所ごとに束ねると数え間違いが減ります。抜けやすいのは、月の途中で入った人、試用期間中の人、月数時間だけ働く短時間のパートです。退職予定者も、発効日をまたいで在籍するなら対象に残ります。
賃金を「算入する・しない」で分ける
時間額を出すとき、支給額をそのまま使うと判断を誤ります。厚生労働省の案内では、最低賃金の計算に入れない賃金が示されています。まず、精皆勤手当、通勤手当、家族手当です。次に、時間外労働や休日労働の割増賃金も外します。賞与のような臨時に支払われる賃金も入りません。
仮の例で見てみます。基本給18万円、通勤手当1万円、家族手当5千円という人なら、時間額を出すときに使う算入できる賃金は基本給の18万円です。この18万円を1か月平均所定労働時間で割って時間額を出し、その時間額を地域の最低賃金と比べます。支給額の合計は19万5千円ですが、通勤手当と家族手当は算入しないため、時間額の計算には使いません。台帳の手当欄に、算入するかどうかの印を付けておくと来年も使えます。
時間額に直して比べる
月給制は、算入できる賃金を1か月平均所定労働時間で割ります。1か月平均所定労働時間は、年間の所定労働時間を12で割って求めるのが一般的な考え方です。日給制なら、日給を1日の所定労働時間で割ってください。
月給から時間額を出す換算例で見てみます。年間の所定労働時間が1,920時間なら、月平均は160時間になります。算入できる賃金が16万円であれば、時間額は1,000円です。地域の最低賃金が1,050円なら、50円足りないと判断できます。算入できる賃金、1か月平均所定労働時間、時間額、地域の最低賃金、差額の5つを列にして、人ごとに並べた確認表を作ってください。この確認表が、そのまま確認の記録になります。
不足があったときの直し方と通知
不足が見つかったら、発効日以降の賃金が最低賃金以上になるように直します。やり方は、基本給を上げる、算入できる手当へ振り替える、所定労働時間を見直す、などがあります。どれを選んでも、発効日から効かせる点は共通です。
決めたら、雇用契約書か労働条件通知書の賃金欄を更新し、本人へ書面かデータで渡してください。給与ソフトの単価、勤怠側の単価設定、募集中の求人票も同じ週に直しておくと、後から探し回らずに済みます。
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賃金の形ごとの換算早見表
賃金の形が違っても、やることは時間額に直すことだけです。下の早見表は、金額の正解を決めるためではなく、どの数字から確認するかの順番をそろえるために使います。迷ったら、自社の形に近い行から見てください。
| 賃金の形 | 時間額の出し方 | 先に確認する数字 |
|---|---|---|
| 時間給 | 時給の単価をそのまま比べる(手当は足さない) | 精皆勤・通勤・家族手当を足していないか |
| 日給 | 日給 ÷ 1日の所定労働時間 | 曜日で所定労働時間が違わないか |
| 月給 | 月給 ÷ 1か月平均所定労働時間 | 年間所定労働時間の最新値 |
| 出来高・歩合 | その期間の賃金 ÷ その期間の総労働時間 | 計算する期間の区切り方 |
| 月給と歩合の併用 | 部分ごとに時間額を出して合算 | どの部分がどの形か |
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見落としやすい場面と対処
つまずきは、金額の計算より運用の境目で起きます。県をまたぐ配置、締め日と発効日のずれ、手当の組み替えの三つが代表的です。
事業所が複数の都道府県にある
勤務地ごとに金額が変わるため、台帳を県別に並べ替えてから計算します。発効日も県でずれるので、改定を反映する月が二つに分かれることがあります。
途中で勤務地が変わった人は、どちらの県で働いた期間かを分けて確認してください。異動が多い職場なら、台帳に勤務地の列を足しておくと、翌年の作業がそのまま流用できます。
締め日が発効日をまたぐ
20日締めのように、発効日が給与計算期間の途中に来ることがあります。この場合は、発効日の前と後で単価を分けて計算するのが基本の考え方です。
給与ソフトによっては、期間を分けて入力したり単価を途中で切り替えたりする操作が要ります。締め日の前に操作の手順を確認しておけば、当日に慌てずに進められます。
手当の組み替えで時間額が上がらない
基本給を据え置いて手当だけ増やす直し方は、算入しない手当だと時間額が動きません。通勤手当を厚くしても、最低賃金の比較では効かない、という形です。
手当を組み替えるとき、別の手当や基本給を減らして帳尻を合わせることがあります。この形は、労働条件の不利益変更に当たる可能性があります。所定労働時間を短くする案も同じです。決める前に、都道府県労働局または社会保険労務士へ確認してください。
これで終わり、と判断する基準
作業の区切りは、計算が終わった時点ではありません。通知と記録まで届いて、はじめて完了と見ます。
- 自社の都道府県の改定額と発効日を、公表資料で確認して控えた
- 発効日に在籍する全員を、勤務地ごとに一覧にした
- 算入しない手当を外したうえで、時間額を出して比べた
- 不足した人の改定額を決め、発効日から反映する形にした
- 雇用契約書または労働条件通知書を更新し、本人へ渡した
- 給与ソフトと勤怠の単価設定、求人票の時給を直した
- 計算した表と確認日を、来年も開ける場所に保存した
保存先は、年度フォルダの中に「最低賃金確認_年」のような名前で置いておくと、翌年に前回の数字をそのまま比べられます。
まとめ
最低賃金の引き上げ対応は、発効日と地域の確認、対象者の洗い出し、算入する賃金の仕分け、時間額への換算、改定と通知・記録の順に進めると迷いが減ります。月給の人を後回しにせず、人ごとに時間額を並べた確認表へ一緒に入れて比べるのが近道です。手当の組み替えだけで済ませると、時間額が動かないまま終わることもあります。発効日が10月1日の地域は9月中に、それより後の地域も10月までに着手し、自社の発効日までに終える形にしておけば、落ち着いて間に合わせられます。
次に確認すること
まずは賃金台帳を開き、時間額が低い順に5人だけ並べてみてください。そこに改定後の金額を書き足せば、影響が出る範囲がその場で見えます。
賃金を直すと、労働保険の年度更新で使う賃金総額にも影響します。手続きの流れは労働保険の年度更新、初めての担当者でも迷わない計算と申告の流れで確認できます。
参考情報
Q&A
月給の人の時間額はどう計算しますか?
算入できる賃金を1か月平均所定労働時間で割ります。1か月平均所定労働時間は、年間の所定労働時間を12で割って求めます。通勤手当、家族手当、時間外の割増賃金は計算に入れません。仮の例では、算入できる賃金が16万円で月平均160時間なら、時間額は1,000円です。
事業所が複数の都道府県にある場合、どの金額と比べますか?
本社の所在地ではなく、その人の勤務地がある都道府県の地域別最低賃金と比べます。発効日も県ごとに違い、2026年度は10月1日から12月2日までの間で分かれる予定です。台帳を県別に並べ替えてから計算すると、反映月の取り違えを防げます。
最低賃金を下回っていたときはどう対応しますか?
発効日以降の賃金が最低賃金以上になるように直します。基本給を上げる、算入できる手当へ振り替える、所定労働時間を見直す、といった方法があります。決めた内容は雇用契約書または労働条件通知書へ反映し、本人へ書面かデータで渡してください。
著者
塩野谷 拓
2nd CORE代表。建設会社で7年間、総務・経理を中心とするバックオフィス実務を経験し、2022年に独立。
現在はフリーランスとして、一人社長・個人事業主を中心に、事務・経理代行、バックオフィス業務改善、Web制作を支援しています。現場で培った経験をもとに、実務で役立つバックオフィスの整え方を発信。
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