「この人にしか分からない」業務を棚卸しして共有する手順
属人化した業務の棚卸しを始めようとすると、「どこから手をつければいいか」と手が止まりますよね。 引き継ぎのたびに同じ質問が飛んできて、結局いつも同じ人に確認する流れになっていませんか。「この人にしか分からない」業務を棚卸しして共有する手順を、準備から記入、確認、共有までの順番で整理します。読み終えたときには、どの業務から手をつけ、誰に確認してもらい、どこへ残すかが決まっている状態を目指します。
属人化した業務の棚卸しは、作業名ではなく目的・頻度・確認者で分けて書き出すと整理しやすい。
- 属人化した業務の棚卸しは、作業名ではなく目的・頻度・確認者で分けて書き出すと整理しやすい
- 手順は準備、記入、確認、共有・保存の順で進める
- 完成の目安は、担当者が変わっても同じ手順で同じ結果にたどり着けるかどうか
- 言葉にできない作業は、次の一歩を具体的に聞くと書き出しやすくなる
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棚卸しの前に分けておく3つの観点
属人化した業務の棚卸しは、作業名ではなく目的、発生する頻度、内容を確認してもらう相手で分けると判断しやすくなります。この3つは同じ「業務整理」に見えますが、目的は書く粒度を、頻度は棚卸しの優先順位を、確認者は書き方の詳しさを決めます。
目的の違い
棚卸しする目的は、引き継ぎ資料を作るため、特定の人への依存を解消するため、業務改善の材料にするためなど複数あります。どの目的で棚卸しするかによって、書く粒度は変わります。
たとえば月次の請求処理で考えると、引き継ぎ目的の場合は操作手順まで細かく書き残すのが基本です。業務改善目的では、どこに時間がかかっているかという視点を加えます。
発生頻度の違い
日常的に発生する作業と、年に数回しか起きないイレギュラー対応では、棚卸しの優先順位が変わります。
毎日の入力作業は手順が固まりやすい一方、年末調整や決算期だけの対応は担当者の記憶に頼りがちです。棚卸しの効果が大きいのは、年末調整や決算期だけの対応です。
確認者の違い
棚卸ししたメモを読むだけで済む相手か、実際に同じ作業をやってみる必要がある相手かで、書き方の詳しさを変えます。
経験のある人への引き継ぎなら要点だけで十分です。未経験者への引き継ぎでは、画面の遷移や入力欄まで書いておくと迷いにくくなります。
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業務の棚卸し手順の判断基準
目的、発生頻度と所要時間、確認者の3項目を別の欄に分けて書くと、引き継ぎ後の差し戻しや確認待ちを減らせます。作業名そのものは、この3項目を書き出すための入り口にすぎません。
記入シートとは、作業名・目的・頻度と所要時間・手順・例外対応・確認者の6欄を並べた1枚です。ここからは1つの業務を例に、各欄へ何を書くかを決めます。
対象業務の選び方は、後述の「実務で進める順番」で説明します。
目的欄の書き方
「請求書を作る」という作業名だけを書き出すと、次の担当者は何のための作業か分かりません。同じ説明を何度も求める流れになります。
「請求書を作る」ではなく「取引先に支払いを依頼するために、金額と期日を確認して送る」まで書きます。そこまで書いておけば、目的から手順までの道筋が明確です。
頻度・所要時間欄の書き方
頻度・所要時間の欄には、「週1回」「月1回」のような発生頻度と、実際にかかるおおよその時間を分けて書きます。頻度と時間を一つの欄にまとめると、後から優先順位を見直すときに読み取りにくくなるためです。
週1回で10分の作業と、月1回で2時間かかる作業では、どちらを先に棚卸しすべきでしょうか。先に棚卸しするのは、月1回で2時間かかる作業です。発生回数が少ない作業ほど手順が文書に残らず担当者の記憶の中だけにとどまりやすく、所要時間が長いぶん止まったときの影響も大きいからです。所要時間は工程ごとに区切って書きます。工程を1つずつ区切ると作業の順番も一緒に書き出せるため、記憶に頼っていた手順を後任者がたどれます。
確認者欄の書き方
棚卸ししたメモを誰が最終確認するかを先に決めておくと、内容の粒度や専門用語の使い方を合わせやすくなります。
確認者を決めずに書き進めると、本人しか分からない略語がそのまま残り、引き継ぎ先で読めない資料になりがちです。
対象範囲がずれていないか確認する
「この業務」と呼んでいる範囲が、実際には複数の作業をまとめた呼び方になっている場合があります。
「請求業務」とひとくくりにしていたものが、見積もり確認、金額計算、送付、入金確認の4つに分かれていたとします。これはよくあるケースです。
手順の根拠が抜けていないか確認する
操作手順だけを書くと、なぜその順番でやるのか、どんな場合に例外が発生するのかが抜けがちです。そうなると、イレギュラー対応で止まりやすくなります。
「金額が一致しない場合は上長に確認する」のような例外対応は、属人化しやすい部分です。優先して書き残しておきたいところです。
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業務の性質で書く力点を変える
棚卸しする業務は、判断が必要な業務、手順が決まっている定型業務、イレギュラー対応の3つに分けて、書く力点を変えます。優劣ではなく、どこを厚く書くかの目安です。
判断が必要な業務なら背景まで書く
見積もり条件の調整のように、相手や状況によって対応が変わる業務は、手順だけでなく判断の背景まで書かないと再現できません。
「値引き幅をどう決めているか」「どの条件なら上長に確認するか」まで書いておくと、後任者も同じ基準で判断しやすくなります。
定型業務なら手順の抜け漏れを確認する
毎回同じ流れで進む作業は、手順さえ正確に書けば引き継ぎやすく、判断の背景まで書く必要は薄くなります。
請求書の発行日や金額を転記するだけの作業なら、入力欄の順番と確認するチェック項目を箇条書きで残せば十分です。
イレギュラー対応なら対処の記録を残す
年に数回しか起きない例外対応は、発生時の記憶が頼りになりやすく、棚卸しの優先度を上げる価値があります。
「取引先から訂正依頼が来たときの対応」のような場面は、発生した日付と対処をメモに残しておきます。次に同じことが起きたとき、頼りになるのはこのメモです。
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実務で進める順番
棚卸しを実際に進めるときは、準備、記入、確認、共有・保存の順に分けると、担当者が変わっても進めやすくなります。ここから先は、その4ステップを順番に見ていきます。
準備するものをそろえる
最初に選ぶのは、差し戻しや確認待ちが多く、発生頻度が低いために担当者の記憶に依存している業務です。複数ある場合は、所要時間が長い業務から棚卸しします。
対象業務を決めたら、記入するシートの書式と確認してもらう相手を決めておきましょう。決めてから書き始めれば、作業は途中で止まりにくくなります。
記入シートに書き込む
記入シートには、作業名、目的、頻度・所要時間、手順、例外対応、確認者の欄を用意します。どの業務でもこの6欄を使えば、同じ形式で書き進められます。
| 項目 | 記入する内容 |
|---|---|
| 作業名 | 具体的な行動が分かる言い方(例: 月末に請求金額を確認して送付する) |
| 目的 | 何のための作業か(例: 取引先への支払い依頼) |
| 頻度・所要時間 | 発生する頻度とおおよその所要時間 |
| 手順 | 実際に行う順番と使う画面・書類 |
| 例外対応 | 条件が変わったときにどう対処するか |
| 確認者 | メモだけで作業できるかを確かめる人の名前(例: 経理担当のリーダー) |
確認者は、実際の引き継ぎ先か、同程度の経験を持つ人を選びます。必要なら実際に作業してもらい、手順どおりに進められるかを確かめます。
次に示すのは、1業務分をすべての欄まで書き切った記入例です。
| 項目 | 記入例 |
|---|---|
| 作業名 | 月末に請求金額を確認して送付する |
| 目的 | 取引先への支払い依頼 |
| 頻度・所要時間 | 月1回・約2時間 |
| 手順 | ①当月の金額一覧を出力する ②取引先ごとに金額と支払期日を突き合わせる ③請求書を作成する ④上長の確認後にメールで送付する |
| 例外対応 | 金額が一致しない場合は上長に確認する |
| 確認者 | 経理担当のリーダー |
作業名・目的・頻度と所要時間・手順・例外対応・確認者の6欄がすべて埋まっていれば、記入は完了です。
記入後に第三者へ確認してもらう
書き終えたメモは本人以外の人に読んでもらい、手順だけで作業ができるかを確かめると、書き漏れに気づきやすくなります。
確認者が「ここは何を見て判断するのか」と質問した箇所は判断の根拠が抜けている部分なので、その場で書き足します。完成の目安は、担当者が変わっても同じ手順を読んで同じ結果にたどり着けるかどうかです。
共有と保存まで決める
棚卸ししたメモは作っただけで終わらせず、どこに保存し、誰が更新するかまで決めておきます。そうしておくと、半年後に古い情報のまま放置される事態を防げます。
共有フォルダには業務名で並べて保存するのが基本です。更新した日付をメモの先頭に残しておくと、最新版かどうかをその場で判断できます。
本人がうまく言葉にできないとき
「何となくやっている」と言われて手が止まったときは、質問の仕方を変えると書き出しやすくなります。
質問を「普段どうやっていますか」ではなく「次に同じ作業が来たら、最初に何を開きますか」に変えることをおすすめします。具体的な操作から思い出すほうが、本人も言葉にしやすいからです。
まとめ
属人化した業務の棚卸しは、作業名ではなく目的・頻度・確認者に分けて書き出します。そうすれば、担当者が変わっても同じ結果にたどり着けます。
- 作業名ではなく目的で書き出す
- 頻度と所要時間で優先順位をつける
- 確認者を先に決めてから記入を進める
- 保存先と更新ルールまで決めて終わる
次に確認すること
まずは差し戻しや確認待ちが多く、発生頻度が低い業務を一つ選びましょう。今回の記入シートに沿って、目的と確認者を書き出してみます。棚卸しが終わった業務からは、業務の標準化5ステップを使って、手順を決まった書式にそろえられます。手順を書く手間を減らしたい場合は、「マニュアルを作る時間がない」人のための最小マニュアル術がおすすめです。
Q&A
確認者には誰を選べばいいですか。
原則は実際の引き継ぎ先です。引き継ぎ先がまだ決まっていない場合は、同程度の経験を持つ別の担当者で代用し、内容を最終確認したうえで、メモを読んで手順どおりに進められるかを確かめてもらい、必要なら実際に作業してもらいます。
記入シートの6欄はどの順番で埋めればいいですか。
記入の工程では、洗い出した棚卸し軸(目的・頻度(所要時間を含む)・確認者)の順で、作業名/目的/頻度・所要時間/手順/例外対応/確認者の6欄を埋めます。手順を書きながら抜けている例外対応に気づくことが多いため、手順と例外対応は往復しながら整えます。
6欄が埋まっていれば完成と判断していいですか。
欄が埋まっているだけでは不十分です。確認の工程では、確認者にメモを読んで手順どおりに進められるかを試してもらい、必要なら実際に作業してもらい、担当者が変わっても同じ手順で同じ結果にたどり着けると分かってから、共有・保存に進みます。
著者
塩野谷 拓
2nd CORE代表。建設会社で7年間、総務・経理を中心とするバックオフィス実務を経験し、2022年に独立。
現在はフリーランスとして、一人社長・個人事業主を中心に、事務・経理代行、バックオフィス業務改善、Web制作を支援しています。現場で培った経験をもとに、実務で役立つバックオフィスの整え方を発信。
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