社会保険料率の改定を給与計算へ反映する時期は、毎年ふっと迷いますよね。 料率は年度ごとに見直され、健康保険と雇用保険では新しい率を使い始める月もそろっていません。どこか一か所の更新が抜けると、控除額のずれが翌月以降まで残ります。年間のどこで何が動くのか、給与ソフトのどの欄を直すのか、確認を誰に回すのかを、年間表とチェックリストで整理します。読み終えたら、自社の更新スケジュールを一枚に書き出せる状態を目指します。
毎年の確認が要るのは健康保険料率、介護保険料率、雇用保険料率で、2026年度からは健康保険に上乗せする子ども・子育て支援金率も確認します。厚生年金保険料率は18.3%で固定されています。
- 健康保険と介護保険は例年3月分から、雇用保険は4月1日以降に支払う賃金から新しい率になります。
- 雇用保険は社会保険ではなく労働保険に含まれますが、給与から控除する項目なので同じ年間表で見ておきます。
- 給与計算で直す場所は、全員共通の料率設定と、一人ひとりの標準報酬月額(等級)の二か所です。
- 標準報酬月額は、4月から6月の報酬をもとに毎年決め直す定時決定と、給与が大きく動いたときの随時改定で変わります。
- 料率の数字は協会けんぽや厚生労働省が公表するので、その年の資料を見てから入力します。
社会保険料率の改定と給与計算の基本整理
改定は、保険の種類ごとに見直しの時期も窓口も違います。最初に「何が変わる月か」「どの欄を直すか」「誰が確認するか」の三つへ分けると、給与計算の更新もれが見つけやすくなります。
毎年変わるものと、固定されているもの
毎年の確認が要るのは、健康保険料率、介護保険料率、雇用保険料率と、2026年度から健康保険に上乗せされる子ども・子育て支援金率です。健康保険料率は全国健康保険協会(協会けんぽ)が都道府県ごとに公表し、介護保険料率は同じ協会けんぽが全国一律で公表します。雇用保険料率は厚生労働省が年度ごとに示します。厚生年金保険料率は、日本年金機構の案内では2017年9月を最後に引上げが終了し、18.3%で固定されています。
今年はどれが動いたかを一行で書き出すと、確認すべき範囲が一気に狭まります。健康保険の率は都道府県支部ごとに違うため、事業所が複数ある会社では所在地ごとに確認します。健康保険組合に入っている会社は、協会けんぽより組合の案内が確認先です。
雇用保険は社会保険ではなく労働保険
呼び方の整理も先にしておきます。雇用保険は労災保険とあわせた労働保険で、健康保険・介護保険・厚生年金保険をまとめた社会保険とは制度も届出先も別です。厚生労働省の案内でも、雇用保険料率は労働保険の枠で示されます。
それでも給与計算の年間表では同じ紙に並べておくほうが安全です。控除する月が近く、担当者が同じ時期に手を動かすからです。なお、前年度の賃金総額を申告する労働保険の年度更新と、標準報酬月額を決め直す算定基礎届は、提出先も目的も別の届出です。制度の呼び方は区別したうえで、作業する時期が重なるものとして同じ年間表に並べます。
反映する月は保険ごとにそろっていない
新しい率を使い始める月がそろっていない点が、更新もれの起きやすい理由です。協会けんぽの健康保険料率と介護保険料率は、例年3月分(4月納付分)から新しい率になります。雇用保険料率は、厚生労働省の案内では4月1日以降に支払う賃金から新しい率を使います。
ここで迷いやすいのが、社会保険料を翌月の給与から控除している会社です。日本年金機構の案内では、当月支払う給与から前月の標準報酬月額にかかる保険料を差し引くことができるとされています。これが翌月控除です。3月分の保険料を4月支給の給与で控除するなら、料率を切り替えるのは4月支給分です。当月分の保険料を当月支給の給与から引く当月控除なら、切り替えは3月支給分になります。翌月控除か当月控除かを先に確かめてから、切り替える給与月を決めます。
2026年の更新で見ておく数字
2026年度(令和8年度)は、見る場所が一つ増えます。協会けんぽの案内では、健康保険料率と介護保険料率は2026年3月分(4月納付分)から新しい率になります。2026年度の介護保険料率は全国一律で1.62%です。この率がかかるのは40歳から64歳までの介護保険第2号被保険者だけで、健康保険料率に上乗せして控除します。
さらに2026年4月分(5月納付分)から、全国一律の子ども・子育て支援金率0.23%が加わります。健康保険料率の切り替えが3月分から、支援金率の上乗せが4月分からと、月が一つずれる点に気をつけてください。翌月控除の会社なら、前者は4月支給分、後者は5月支給分での反映になります。
雇用保険料率は、厚生労働省の案内では一般の事業で2026年4月1日から2027年3月31日まで合計13.5/1000です。うち労働者負担が5/1000、事業主負担が8.5/1000です。給与から引くのは労働者負担のほうなので、設定画面でどちらを入れる欄かを見てから入力します。
ここに挙げた率は2026年度の数字です。翌年は協会けんぽと厚生労働省がその年に出す表で取り直してください。
直す場所は「率」と「一人ひとりの標準報酬月額(等級)」
給与ソフトで手を入れる場所は、大きく二か所です。ひとつは全員に共通する料率の設定、もうひとつは一人ひとりの標準報酬月額(等級)です。等級は標準報酬月額を保険料額表に当てはめた区分で、どちらの呼び方も同じ欄を指します。料率だけを直しても、標準報酬月額(等級)が古いままなら控除額は合いません。
更新したあとは、全員の合計を見るより、数人を抜き出して前月との差額を確かめるほうが手早いです。介護保険の対象になる人、途中入社の人、給与が変わった人を選ぶと、ずれが出る箇所に当たりやすくなります。
料率更新の年間チェック表
年間の動きは、年度替わりに集中する料率の切り替えと、夏から秋にかけての標準報酬月額の見直しに分かれます。この二つを別のカレンダーとして持つと、給与計算のどの月に何を触るかが決まります。
| 時期 | 動くもの | 給与計算で触る場所 | 確認先 | 自社の締め日・支給日 |
|---|---|---|---|---|
| 3月分から | 健康保険料率・介護保険料率の改定 | 事業所ごとの料率設定 | 協会けんぽの都道府県単位保険料率、または加入する健康保険組合 | |
| 4月分から | 子ども・子育て支援金率の上乗せ(2026年度は0.23%) | 健康保険まわりの料率設定 | 協会けんぽの公表資料 | |
| 4月1日から | 雇用保険料率の改定(労働保険) | 雇用保険の料率設定 | 厚生労働省の公表資料 | |
| 4〜6月 | 定時決定のもとになる報酬の集計 | 支給項目と対象月の確認 | 日本年金機構の案内 | |
| 6〜7月 | 労働保険の年度更新、算定基礎届の提出 | 前年度の賃金総額の集計 | 労働局と年金事務所の案内 | |
| 9月分から | 定時決定による標準報酬月額の改定 | 一人ひとりの標準報酬月額(等級) | 年金事務所から届く決定通知 | |
| その都度 | 随時改定、入退社、40歳と65歳の到達 | 標準報酬月額(等級)と介護保険の区分 | 社内の人事情報と協会けんぽの案内 |
年度替わりに動くもの
4月前後は、料率の切り替えと昇給が重なります。先に料率を直し、そのあとで昇給による支給額の変化を確認する順にすると、原因の切り分けが楽になります。控除額が前月と違うとき、料率を変えたせいか、支給額が変わったせいかを分けて見られるからです。なお昇給で標準報酬月額(等級)が変わるのは、随時改定または9月分からの定時決定のときです。
年間の更新作業という枠では、10月に動く最低賃金の確認も同じ表に並べて管理できます。時給と月給の見方は最低賃金の引き上げ、10月までにやる時給・月給のチェック手順にまとめているので、あわせて自社の年間表に書き足してみてください。
夏から秋に動く標準報酬月額
4月から6月に支払った報酬をもとに、その年の標準報酬月額を決め直すのが定時決定です。算定基礎届を出すと標準報酬月額(等級)が決まり、日本年金機構の案内では9月分の保険料から新しい等級が使われます。翌月控除の会社なら、10月支給の給与から控除額が変わる流れです。
見落としやすいのは、決定通知が届いてから給与ソフトへ入力するまでの間です。担当者の手元で止まったまま9月を過ぎると、あとで数か月分をまとめて調整することになります。通知が届いた日と入力した日を同じ台帳に残しておくと、止まった場所がすぐ分かります。
自社の締め日と支給日に置き換える
上の表は、自社の締め日と支給日を入れて初めて使えるようになります。締めが月末で支給が翌月25日、しかも翌月控除なら、3月分の料率改定は4月25日の支給分から反映する形になります。
表を配るときは、右端の「自社の締め日・支給日」欄を空けたまま渡し、そこへ書き込んでもらう形にすると、担当が変わっても読み替えの手間が減ります。触る月と触る欄を一行ずつ書いておけば、引き継ぎの説明も短く済みます。
更新もれが起きやすい場面
更新もれは、料率を知らなかったことより、反映する月や対象者を取り違えたことで起きるほうが多いです。控除する月のずれ、一部の人だけ変わる項目、確認した記録の抜け。この三つを先に見ておくと、あとからの控除額の修正が減ります。
控除する月を取り違える
よくあるのは、1か月早い、または1か月遅い反映です。翌月控除の会社なのに、3月分の料率を3月支給の給与から切り替えてしまう取り違えが起きます。正しくは4月支給分からです。
気づいたときは、対象者と月と差額を並べた一覧を作り、いつの給与で調整するかを先に決めます。本人へ知らせる一文も給与明細と同じタイミングで用意しておくと、問い合わせが集中しにくくなります。
一部の人だけ変わる項目
介護保険料は、40歳から64歳までの人が対象です。協会けんぽの案内では、40歳の誕生日の前日が属する月から第2号被保険者として徴収が始まります。給与から徴収するのは、65歳の誕生日の前日が属する月の前月分までです。65歳の誕生日の前日が属する月からは第1号被保険者となり、市区町村が徴収します。
毎月の給与計算の前に、その月に40歳と65歳を迎える人を名簿で確認する手順を挟むと、後追いの修正が減ります。入退社や休職から戻った人も、同じ名簿でまとめて見るほうが早いです。
確認した記録が残っていない
どの数字をどこから取ったのかが残っていないと、翌年に同じ確認をやり直すことになります。公表資料を見た日、入力した日、確認した人。この三つだけでも残しておくと、あとから追いかけられます。
保存先は、給与データと同じ場所にまとめておくと探す時間が短くなります。年度ごとのフォルダを一つ作り、その年に見た料率表の控えと確認メモだけを入れておけば十分です。
- 今年の健康保険・介護保険・雇用保険の料率と、健康保険に上乗せする子ども・子育て支援金率を、公表資料で確認した
- 翌月控除か当月控除かに合わせて、切り替える給与月を決めた
- 料率の設定と、一人ひとりの標準報酬月額(等級)の両方を直した
- 40歳と65歳の到達者、入退社と給与変動のあった人を名簿で確認した
- 確認した日と入力した人を、給与データと同じ場所に残した
更新箇所の確認表
更新作業は、全員共通の料率、一人ひとりの標準報酬月額(等級)、個人の属性変化の三つに分けると迷いにくくなります。どれに当たるかで、見る資料も最後に確認する人も変わります。
| 変更の種類 | きっかけ | 直す場所 | 最後に見る人 |
|---|---|---|---|
| 全員共通の料率 | 年度ごとの改定 | 事業所単位の料率設定 | 給与担当と上長の二人で照合 |
| 一人ひとりの標準報酬月額(等級) | 定時決定、随時改定 | 個人ごとの標準報酬月額(等級) | 決定通知と突き合わせた担当者 |
| 個人の属性変化 | 40歳と65歳の到達、入退社 | 介護保険の区分と資格の有無 | 人事情報を持つ担当者 |
この表は、正解を固定するためのものではありません。確認の順番をそろえるために使います。三つのうち二つ以上が同じ月に重なると、原因の切り分けが難しくなります。重なる月は、料率、標準報酬月額(等級)、属性の順に一つずつ直し、そのつど差額を見る進め方が安全です。
実務で進める順番
準備、反映、確認、共有の順に分けておくと、担当が変わっても同じ進め方ができます。とくに確認と共有を省かない形にしておくと、あとからの修正が減ります。
- 準備:今年の料率と自社の控除方法を確かめ、切り替える給与月を決める
- 反映:料率設定を直し、続いて標準報酬月額(等級)と介護保険の対象者を直す
- 確認:介護保険の対象者、途中入社、給与が変わった人を数人選び、前月との差額を見る
- 共有:変わる月と理由を一文で残し、給与明細を配る前に関係者へ知らせる
共有の一文は、長く書かなくて構いません。「4月支給分から健康保険料率が変わるため、控除額が前月と異なります」のように、変わる月と理由だけで足ります。
まとめ
社会保険料率の改定は、年度替わりの料率と、夏から秋の標準報酬月額という二つの流れで動きます。給与計算で直す場所は、全員共通の料率の設定と、一人ひとりの標準報酬月額(等級)の二か所です。確認するときは、これに40歳・65歳の到達などの個人の属性変化を足した三つの区分で見ると、更新もれが見つけやすくなります。ただし料率の数字は毎年変わるので、年間表はその年の公表資料で取り直したうえで、この三つの区分をチェックリストとして使ってください。
次に確認すること
まずは自社の給与が翌月控除か当月控除かを確かめ、今年の料率を切り替える給与月をカレンダーに書き込むところから始めます。そのうえで、年間チェック表の「自社の締め日・支給日」欄に記入してみてください。
残りは、9月分から変わる標準報酬月額(等級)の決定通知が届いたときに、誰が入力して誰が確認するかを決めるだけです。この二人の名前が埋まると、来年の同じ時期に迷う時間はかなり短くなります。
参考情報
Q&A
2026年の改定で、給与計算がとくに確認する数字はどれですか?
協会けんぽの案内では、健康保険料率と介護保険料率が2026年3月分(4月納付分)から新しい率になり、40歳から64歳までの介護保険第2号被保険者には全国一律1.62%の介護保険料率が加わります。さらに2026年4月分(5月納付分)から全国一律の子ども・子育て支援金率0.23%が上乗せされ、切り替え月が一つずれます。雇用保険は厚生労働省の案内で、一般の事業が2026年4月1日から2027年3月31日まで合計13.5/1000(労働者負担5/1000、事業主負担8.5/1000)です。いずれも2026年度の数字なので、翌年以降はその年の公表表で取り直してください。
翌月控除と当月控除で、切り替える給与月はどう変わりますか?
3月分の健康保険料率の改定なら、翌月控除の会社は4月支給分から、当月控除の会社は3月支給分から切り替えます。日本年金機構の案内では、納付対象月の翌月末日が納付期限で、当月支払う給与から前月の標準報酬月額にかかる保険料を差し引くことができるとされています。自社がどちらの扱いかを給与規程で先に確かめてから、切り替える給与月をカレンダーに書き込むと取り違えが起きにくくなります。雇用保険料率は4月1日以降に支払う賃金からなので、社会保険とは数え方が別です。
今年の料率はどこで確認すればよいですか?
健康保険料率と介護保険料率は協会けんぽの都道府県単位保険料率のページ、健康保険組合に加入している会社は組合の案内が確認先です。雇用保険料率は厚生労働省のその年度の雇用保険料率のページ、厚生年金保険料率と定時決定の扱いは日本年金機構のページで確認します。数字は年度ごとに差し替わるため、前年の控えを使い回さず、見た日と入力した人を給与データと同じ場所に残しておくと翌年の確認が短く済みます。
著者
塩野谷 拓
2nd CORE代表。建設会社で7年間、総務・経理を中心とするバックオフィス実務を経験し、2022年に独立。
現在はフリーランスとして、一人社長・個人事業主を中心に、事務・経理代行、バックオフィス業務改善、Web制作を支援しています。現場で培った経験をもとに、実務で役立つバックオフィスの整え方を発信。

