製造業の原価管理をExcelで始めたいとき、どこまで細かく作ればいいのか迷いますよね。 材料費も労務費も毎月動きますし、製品ごとの割り振り方を決めようとした途端に手が止まることもあります。最初から精密な原価計算を目指さず、月次でおおよその姿をつかむ作り方から整理します。扱うのは、費目の分け方、間接費の割り振り、どこまでをExcelで持つかの線引きの3つです。最後に、作った表を誰がいつ見直すかまで決めておくと、更新が止まりにくくなります。
原価は材料費・労務費・外注加工費・製造経費の4つに分け、製品に直接ひもづくものから埋めます。どの費目に入れるか決めにくい費用が出たときは、入れた場所を備考欄へ一行だけ残しておいてください。
この記事の結論
- 製品ごとに分けられない費用は、作業時間など一つの基準でまとめて割り振り、その基準は月をまたいで変えません。
- Excelは入力列・計算列・判定列を分け、計算列に手入力しない形にしておくと数字が崩れにくくなります。
- 精度より先に、毎月同じ手順で埋まることを優先し、ズレが大きい費目だけ後から細かくします。
- 更新した人と更新日、次に見直す月は表の中へ。担当者しか分からない状態を防ぐためです。
Excelで原価管理を始める前の基本整理
原価管理をExcelで始めるときは、費目の分け方、製品へのひもづけ方、見る頻度の3つを先に決めます。この順で決めると、表の列があとからぶれにくくなります。
最初から全部を正確に出そうとすると、表が重くなって続きません。まずは月に一度、同じ手順で埋まる形を作ります。細かさを足すのは、ズレが大きい費目が見えてからで間に合います。
原価を4つの費目に分ける
費目は、材料費、労務費(製造に関わる人の人件費)、外注加工費、製造経費の4つに分けると整理しやすくなります。迷ったときの基準は「それが無いと製品が作れないか」です。販売や事務にかかる費用は、製造原価には入れずに分けておきます。
工場の電気代は製造経費、営業車のガソリン代は製造原価の外、という分け方です。製造原価に入れるか外に出すかで迷った費用は、決めた置き場所を備考欄に残します。翌月も同じ場所へ入れれば、月ごとに置き場所がぶれません。
| 費目 | 含むもの | 含めないもの | 入力のしかた |
|---|---|---|---|
| 材料費 | 製品になる素材、部品、消耗する副資材 | 事務用品、工具そのものの購入費 | 仕入伝票から月次で入力 |
| 労務費 | 製造に関わる人の賃金、手当 | 営業・事務だけを担当する人の賃金 | 作業時間×時間単価で計算 |
| 外注加工費 | めっき、熱処理、組立などの外注分 | 製品と関係ない業務の委託費 | 外注先の請求書から入力 |
| 製造経費 | 工場の電気代、設備の修繕費、工場家賃 | 本社の家賃、広告費 | 月次の合計額を入力 |
含めないものを先に決めると、月ごとに入れる場所が変わる事態を防げます。入力するときは前月の表を横に開いて見比べると、置き場所のずれに気づきやすくなります。
製品にひもづくかどうかで二段に分ける
次に、同じ費用を「その製品のために使ったとすぐ言えるか」で二段に分けます。言えるものが直接費、工場全体でまとめてかかるものが間接費です。両方に当てはまりそうなときは、まず直接費で拾い、拾えなかった分を間接費へ回します。
製品Aのために買った鋼材は直接費、工場全体の電気代は間接費、という具合です。直接費が増えるほど実態には近づきますが、伝票を製品ごとに分ける手間も増えます。最初は材料費と外注加工費だけ直接費にする形が始めやすいです。
見る頻度は月次から始める
原価を見る頻度は、締めのタイミングに合わせて月次から始めるのが現実的です。日次や案件ごとに出したくなりますが、入力が追いつかないと表そのものが止まります。まずは、決めた入力日どおりに月次の表が埋まる状態を目指してください。その次の段階が、金額の大きい製品だけを製造ロット(一度にまとめて作る単位)ごとに出すやり方です。この順で広げると無理がありません。
月次なら、仕入伝票、作業時間の集計、外注の請求書がそろうタイミングで一度に入力できます。入力日を毎月決めて、担当者と一緒に表の上部へ書いておくと、抜けに気づきやすくなります。
ざっくり原価を出すための計算の形
ざっくり原価は、材料費と外注加工費をそのまま入れ、労務費は作業時間×時間単価、間接費は一つの基準で割り振る形にします。合計を完成数量で割れば、一個あたりの原価が出ます。
労務費は作業時間に単価を掛ける
労務費は、製品ごとの直接作業時間に、社内の時間単価を掛けて出します。時間単価は、直近に締めた期間(前期、または直前の数か月)の賃金・手当の合計を、その期間の直接作業時間の合計で割って決めます。いちど決めた単価は、期の途中では変えません。見直す月を先に決めておくと、月ごとの比較が崩れません。
作業時間は、日報や作業指示書の実績から拾います。15分単位など丸め方を先に決め、労務費の計算列は円未満切り捨てにそろえておくと、月ごとに端数の処理がばらつきません。
間接費は一つの基準でまとめて割り振る
間接費は、製品ごとに分けられないからこそ、割り振る基準を一つだけ決めます。直接作業時間を基準にする形で説明します。計算式は「その月の間接費合計 ÷ その月の直接作業時間の合計」で、答えが1時間あたりの金額です。この金額に各製品の作業時間を掛けた額が、その製品の負担分です。分母に入れる作業時間は、労務費を計算するときに使った時間をそのまま足し上げてください。
基準を月ごとに変えると、前月との比較ができなくなります。機械の稼働時間や材料費の金額を基準にする方法もあります。ただ、どれを選ぶにしても、しばらくは同じ基準で通すのが前提です。そのほうが前月との差を読み取れます。
見直すときは、基準を足さずに選び直してください。いまの基準へ別の基準を重ねるのではなく、一つだけ選び直す形です。最初の基準には直接作業時間をおすすめします。日報や作業指示書からすでに拾っている数字で、毎月同じ方法で数えられるからです。
計算例で数字の流れを確認する
次の表は計算の形を確かめるための仮の数字です。自社の数字に置き換えて使ってください。前提は、その月の間接費合計300,000円、前期実績から決めた時間単価2,500円です。その月の直接作業時間の合計は150時間(製品A20時間+その他130時間)とします。
| 項目 | 製品A(自社加工が中心) | 製品B(外注が中心) |
|---|---|---|
| 完成数量(個・入力) | 100 | 50 |
| 材料費(円・入力) | 120,000 | 60,000 |
| 直接作業時間(時間・入力) | 20 | 0 |
| 労務費(円・計算) | 50,000 | 0 |
| 外注加工費(円・入力) | 0 | 90,000 |
| 間接費の割り振り額(円・計算) | 40,000 | 0 |
| 製造原価合計(円・計算) | 210,000 | 150,000 |
| 単位原価(円・計算) | 2,100 | 3,000 |
気づきたいのは製品Bです。社内の作業時間がゼロなので、作業時間だけを基準にすると間接費をまったく負担しません。製品Bの単位原価3,000円には、間接費が1円も入っていません。本来負担すべき分を乗せれば、この数字はさらに上がります。外注が中心の製品は、実際より原価が安く出るということです。
対処は二つあります。一つは、割り振りの基準を金額へ置き換える方法です。分母は、労務費(直接作業時間×時間単価)と外注加工費を足した金額にします。「その月の間接費合計 ÷ その合計額」で、1円あたりの負担率が出ます。もう一つは、外注中心の製品だけ別表で見る方法です。
先の仮の数字で確かめます。労務費の合計は150時間×2,500円=375,000円です。外注加工費が製品Bの90,000円だけだとすると、分母は465,000円、負担率は約0.65円です。製品Bの負担額は90,000円×0.65=約58,500円になります。
基準を二本立てにするのではなく、置き換えたあとはその一つの基準で通します。どちらの対処もとらない間は、「この製品は間接費を負担していない」と備考欄に残しておくと、後から見た人が判断を誤りません。
列は入力・計算・判定で分ける
Excelの崩れは、式の入ったセルに数字を直接打ち込んだ瞬間に起きます。列の役割を、手で入れる入力列、式で出す計算列、基準と比べる判定列の3つに分けておきます。計算列の見出しだけ色を変えておくのも手です。打ち間違いに気づく速さが変わります。
判定列は、単位原価が目標値を超えたら印が出る、くらいで足ります。配る前に計算列へ保護をかけておくと、戻ってきたファイルの修復に時間を取られません。
Excelの表で先に決めておく6つ
- 列名は説明文と同じ言葉にそろえる。途中で「人件費」と「労務費」を混ぜない。
- 空欄と0を使い分ける。未入力は空欄、発生していないものは0。
- 端数の扱いを決める。労務費は円未満切り捨て、割り振り額は円未満四捨五入など。
- 単位を列名に書く。円、個、時間。
- 更新した日と入れた人の名前、次に見直す月(時間単価と割り振り基準を見直す月)を1列ずつ残す。
- 費目の置き場所と迷った理由を書く備考欄を1列置く。
どこまでExcelで持つかの判断軸
表を広げるかどうかは、4つの軸で決めます。製品の売上規模、伝票から製品名が追えるか、毎月同じ方法で数えられるか、締めに間に合うか。迷ったら狭いほうから始めます。
| 迷う場面 | 見る基準 | ざっくり始めるときの進め方 |
|---|---|---|
| 製品ごとに分けるか、まとめるか | 売上に占める割合が大きいか | 上位の数品目だけ製品別にし、残りはまとめて1行 |
| 直接費をどこまで細かく拾うか | 伝票から製品名がすぐ分かるか | 分かるものだけ直接費、迷うものは間接費へ |
| 間接費の基準をどれにするか | 毎月同じ方法で数えられるか | 直接作業時間から始め、しばらく変えない |
| Excelで続けるか、やり方を変えるか | 入力が月の締めに間に合っているか | 間に合わないなら列を減らす。それでも無理なら相談する |
列を増やすかどうかは、上の表の順に当てはめると決めやすくなります。売上規模、伝票の追いやすさ、数え方のそろい方、締めへの間に合い方の順です。判断表は正解を固定する道具ではなく、毎月の確認順をそろえるための道具です。迷った理由も備考欄に残しておくと、次の見直しが早くなります。
手戻りが起きやすいところ
原価表で手戻りが起きるのは、数字そのものより「どの範囲の数字か」が伝わっていないときです。対象の月、対象の製品、税込か税抜か。この3つが表の上に書かれていないと、受け取った人が確認のために連絡してきます。
材料費を税込で入れた月と税抜で入れた月が混ざると、比較した瞬間に話が止まります。対策は、シートの一行目へ「2026年9月分/製品A・B/税抜」と書いておくことです。たった一行で、往復のやり取りが減ります。
更新前に見る5項目
- 一行目の対象月・対象の製品・税込か税抜かの表記
- 材料費と外注加工費の請求書が、その月の分でそろっているか
- 割り振りの分母が、いま選んでいる基準(直接作業時間の合計、または労務費+外注加工費の合計)と一致しているか
- 計算列の式が消えていないか
- 更新日と、更新した人の名前
まとめ
費目を4つに分け、製品にひもづくものから埋め、残りを一つの基準で割り振る。この順番で作ると、ざっくりでも毎月同じ形の数字が出ます。どこまでをExcelで持つかは、売上規模、伝票の追いやすさ、数え方のそろい方、締めへの間に合い方の4点で線を引きます。迷ったら狭いほうから始めてください。更新した人、更新日、次に見直す月の3つを表に残しておけば、担当者しか分からない表にはなりません。精度を上げるのは、ズレが気になる費目が見えてからで足ります。
気をつけたいのは、割り振りの基準を途中で変えることと、計算列を手で上書きすることの2つです。どちらも、過去の月と比べられなくなります。比べられる形を守ることが、ざっくり管理を続ける条件になります。
次に確認すること
まずは直近1か月分だけ、製品を2〜3品目に絞って作ってみます。材料費、外注加工費、作業時間、完成数量の4つが埋まれば、時間単価を掛けて単位原価まで出せます。間接費の割り振りは次の月からでかまいません。その場合は「間接費を含まない数字」と備考欄に残します。試しに作った表で違和感のあった費目が、次に細かくする場所です。
材料の在庫数が合わないと原価もぶれるので、棚卸の数字を先に整えておくと進めやすくなります。手順は生成AIとExcelで棚卸表を作る方法|商品データの入力から差異確認までにまとめています。
表の形を一から組むのが重いときは、先に作例を見ておくのが近道です。参考になるのが生成AIで作るExcel請求書テンプレートと請求書作成ソフトの違い|計算・法令を人が確認するポイントです。生成AIに作らせた表を人が確認する考え方に触れています。
Q&A
間接費を割り振る基準は、何で選ぶとよいですか?
毎月同じ方法で数えられる基準を一つ選びます。まずは直接作業時間から始め、外注中心の品で間接費がゼロになってしまう場合は、労務費と外注加工費の合計額を基準に置き換えるか、その製品だけ別表で見るようにしてください。基準は月ごとに変えないことが大切です。
最初の1か月は間接費を割り振らなくてもよいですか?
はい、最初の1か月は割り振らなくてかまいません。材料費・外注加工費・作業時間・完成数量から単位原価を出し、備考欄に「間接費を含まない数字」と残しておいてください。割り振りは翌月から追加します。
外注が中心の製品だけ原価が低く出るのはなぜですか?
直接作業時間がゼロだと、作業時間を基準にした配分では間接費が配られないためです。労務費と外注加工費の合計額を基準に置き換えるか、外注中心の品は別表で確認してください。
著者
塩野谷 拓
2nd CORE代表。建設会社で7年間、総務・経理を中心とするバックオフィス実務を経験し、2022年に独立。
現在はフリーランスとして、一人社長・個人事業主を中心に、事務・経理代行、バックオフィス業務改善、Web制作を支援しています。現場で培った経験をもとに、実務で役立つバックオフィスの整え方を発信。

